我がいとしの君
夏、我が愛しの君といえば、「朝顔」に決まっている。そう、私は確信する。
私が、夏に朝顔を楽しみにするようになったのは、数年前から。
以前から植物が好きだったので、独り暮らしの楽しみに実家から植木を幾つか貰いうけた。自分でも花屋を巡り、色々な鉢植えを買って来ては、よく枯らした(T_T)。
桜や、スノードロップ、ミニバラ、クレマチス、……オダマキも枯れた。
桜なんかは、いい木から手折って、さし木にして育てる。しかし、植木鉢に移してからなかなか根を張ってくれない。仕舞いには腐ってしまう。悲しい。
さし木は、私にはまだ高等だった。
スノードロップは残念だ。やはり、冬の植物は東京の暖かい春が堪えるのか……。同じ様にシクラメンも何度も枯れた(ただ、シクラメンは意外に根っこがしっかりしているので、根気強く接していれば、冬にまた葉を出してくれる。……毎年コレの繰り返しで、一向に花が咲かないのがかなり悲しいが……完全に枯らすよりはマシか?)。そう、季節モノの植物は、その季節が過ぎてからが腕の見せ所なのだ。
バラは実家に持って帰り、無事に根付き、今ではかなり増えている。母が毎年バラの花が咲く季節に写メールをくれるのが嬉しい。東京で買い、一時は油虫にやられそうになったが、彼女が長生きしてくれて良かった。
……クレマチスは完全に私のミスだ。はぁ。生き物を育てる慎重さ(深長さ)を改めて知ったな。クレマチスは、和名が「鉄線」。北斎も描いているから、昔から日本にある花なのだろう。…確かに、あの鉄線の色は日本的だな。「ハナダ色」(うわっ、このPCバカだ。ハナダの漢字が出ない!!)だったり、「菖蒲色」だったり、いかにも着物の柄に合いそうな、団扇の柄になりそうな……。日本人の好きそうな青系の色をしている。花の形も大胆で好きだ。八重になってるのなんかは、ひどく優美で……。蔓科の植物特有の茎のうねりからくる艶かしさや靭やかさなんかが、更に彼らの美しさを増している。
クレマチスはいい。
…枯れたけど……。
そして、夏。…初夏かな、朝顔の種を蒔く。
種から育てると、愛着も一入だ。
一度、種から育てると、これがなかなかやめられない。初冬の頃、漸く乾いた種を収穫し、翌年に備える。そしてまた初夏が訪れる。そうしたら、また蒔かずにはおれなくなっているのだ。最初から最後までが、自分の手の内にある感じがいいのかもしれない。
そうそう、朝顔といえば、私なんかは、江戸の花という印象が強いのだが。江戸のひとは朝顔が好きみたいだし、日本に伝わったのはかなり前のことのようだが、隆盛を極めたのは、やはり江戸のころのようだ。
江戸時代といえば、俳句もそうだ。
私の好きな俳人に、蕪村がいる。彼の、
「朝がほや一輪深き淵の色」
有名な句らしいが、うーん、確かに好い句だ。
長たらしい説明より、ずっと端的に朝顔の良さが伝わる。
夏の朝の凛とした感じや、何かを考えている様な、何かを考えさせる様な、そんな朝顔の色の様子が見えてくる。薄い花弁、透く朝日、緑の葉の中にすぅと浮くように咲く朝顔、そして青。
いいねぇ。
江戸の人間は風流人が多いから、こうやって朝顔なんかを俳句に詠んだり、結構したんだろうな。
朝顔は俳句では秋の季語だが、夏真っ盛りなこの時期に、静かな涼しさを与えてくれる、夏にぴったりの花だ。暑いと思って起きた朝も、朝顔の青を見ると幾分やわらぐ。
やはり、夏、我がいとしの君は、朝顔しかいないな。
そう思う。
(昨日、咲いたウチの朝顔の写真をのせてみる)
担当者:ミドリマル